落語の台本。今回は立川志の輔師匠の「紺屋高尾」です。

ワタクシ、噺を覚えるのに、youtubeなんかで聴きながら文字起こしをするんですが、これがなかなかに大変なんです。

めっちゃタイピングが早ければ訳ないんでしょうけど、ブラインドタッチも出来ないのでまあ時間がかかるわけです。

そんな大変さを分かっておりますので、落語をやりたい!という方のために、ワタクシが文字起こしをしたものを載せたいと思います。

まあ一語一句完璧に、って訳にはまいりません。

大体こんな感じかなっとふんわりしているところもありますが、それほど覚えるのに問題はないかと思います。

あと、極力わからない言葉は調べておりますが、それでもわからない言葉もありますので、そのあたりは「こんな感じでかな」で書いております。

 

今回の落語の台本は、立川志の輔師匠の「紺屋高尾」です。

これは何度聴いてもグッとくるお噺。

ぜひ。

 

「紺屋高尾」立川志の輔

「とめこう!」

「へい。」

「久蔵どうしてる?」

「寝てます。」

「何を?」

「寝てます。」

「寝てる?ほおん。風邪か?」

「いや、なんだかわかんないんですよここ3日ばかり飯食わねえんですよ。」

「飯食わねえ?そりゃいけねえな。おうわかった、俺がちょいとみてくらあ。」

どんどんどんどん・・・

「おい、久蔵!開けるよ!開けるよ!返事がねえな。開けるぞ!おいなんだよ。患ってるってな。」

「はああ・・・・」

「なんだいお前・・誰が森進一やれって言った。ええ?風邪か?ばかおまえ、いい若いもんがなんだ、ええ職人が風邪ひいたってそんなとこ寝込んだって、はあはあ言って同情買おうってんじゃねえんだ。ぽおんと起きて町内駆け回ってみいな。とおんと、風邪なんか吹っ飛んじまうぞ。え?それとも何か?医者呼んでこようか。薬買ってこようか。どうする?」

「わたしの病は、医者や薬じゃ治らないんです。」

「医者や薬じゃ治らねえ?へえ、だけどわかってんだ。それで治らねえってことをわかってるってとこをみると、おめえはおめえで自分の病がなんて病かわかってんだ。言ってみな。なんて名前の病気だい。」

「わたしの病気はねえ、お医者様でも草津の湯でもってんですよ。」

「・・随分なげえ名前の病気だなおい・・・お医者様でも草津の湯でも・・どっかで聞いたことのある文句だな。お医者様でも草津の湯でも、惚れたやまーいが。おい、それじゃなにか久公、おめえのその病ってのはフナのかく乱ナマズの脚気、恋の病で恋煩いか?」

「はああああああ、はあああいい。」

「何を言ってんだろうね。ばかおまえ、なんだって思うじゃねえか心配しちまって。ばあかおまえ、ほんとおにまあ、恋煩いなんてのはいいか?どっかのおまえ、大きなお屋敷のお嬢さんが誰か男に想いをかけると、声に出して言えないと、言えないからどんどんどんどん体の中にたまっちまう、たまっちまうから飯が食えなくなる、だんだんだんだんやせ細っていく、病気になる寝込んじまう、これを恋煩いというんじゃねえか。どこの女だ、名前を言ってみなよ。」

「親方にどこの女だなんて聞かれると面目なくって穴があったら入りたいくらいなんですよ。」

「俺に、名前を聞かれると、面目ねえ・・ええちょっと待て待て待て・・・俺に聞かれて面目ねえ・・ああわかった!言わなくていい、ここが違うここが。おいい!おたけ!こっち上がってこいよ。上がってこいっていいよ飯の支度なんてどうだって。いいよ洗濯物なんて、上がってこいよ、こっちへ。ったく、だから言ってんだよ普段から。可愛がれって弟子は。可愛がれはいいけど可愛がりすぎると勘違いするっそう言ってんだろ。おめえに恋煩いだってよ。どうする。こんなもんでもはいそうですかってくれてやるわけにいかないんだよ。なあ。どうしよ。日の交代にしようか。1日交代って。それとも、昼夜の交代にしようか。え?俺が昼ならおめえが夜とか。え?どっちがいい?」

「そんな、おかみさんなんかに惚れるわけないじゃありませんかあ・・」

「あ、違うのか。なんだなんだ違うんだってよ。なにしに上がってきたんだ降りてろ降りてろ。で、なんに惚れたんだい。」

「大名道具に惚れたんですう。」

「なんだい。人間かと思ったら道具かい、大名道具?大名道具ってえとなんだい?刀や?え?槍か?てえほうか?」

「てえほう?そんなもんに・・・・」

「おいおいおいいい加減にしろよおめえ。わざわざおれが馬鹿になって聞いてやりゃあ話しやすいかと思って聞いてんだい、いい加減にしろ本当に。ええ?心配なんだよ、おめえが言わねえってえと。3日も寝こんでで飯食わねえってほんとに死んじまうぞ?え?言わねえといけねえやな。なんだよ。言ってくれよ。心配なんだよ、おれあおめえのことが好きなんだからよ。」

「はい、あたしが言わないのが親方に心配かけてるっていうんでしたら言います。今から10日ばかり前なんですが、あたくしあのう、兄弟子に連れられて初めて吉原てところんに行ったんです。」

「初めて?おめえたしか25だろ?初めてってえな遅えな。え?どうだったい?」

「きれいなとこなんですねえ、夜行ったのにもう・・・・・明るいんですよお。」

「おう、不夜城ってくれえのもんだ。どうだい?なんかおもしれえもんでもあったかい?」

「花魁道中ってもんに出くわしました。」

「おお、いいもん出でくわしたな。めったに見れるもんじゃねえやな。よかったな。」

「綺麗な女ですねえ。まるで天人が天下ったような綺麗な女か次から次へと出てくる中にい、一際目立つ、いい女ああ・・」

「おまえ起き上がってどうしようってんだ・・・病が吹っ飛んじまったろ。ええ?誰だい?」

「誰だって聞いたら三浦屋の高尾太夫って言うんですよ。こういう綺麗な女の人と一晩でいいから話がしたてみたいって兄弟子に言ったら笑われて、『ばあか、こんなの大名道具って言って、大名だって頼み込んだってかぶり横に振られりゃあうんともすんとも言えねえところ。それを職人風情が及ばぬ恋の滝登り、家帰って小便して寝ちまえ』ってそう言われて、それからああたしゃあ家帰って小便まではしたんです、小便まではしたんですけど後眠れないんですよお。天井見ると天井に高尾の顔が、壁見ると壁に高尾の顔があ、飯食おうと思うとご飯の中に高尾の顔があ・・・今こうやって親方と話していると・・親方が高尾に見えてきた・・・親方あ」

「気持ち悪いなおいい、よせばか!ええ?なあにを言ってやんだろうねえほんとにまあ。ええそれで?恋煩いで、寝込んで、飯食わねえで、ひょろひょろになって、ええ?死ぬかもしれねえってばあかかおめえはほんとうにまあ、何をいってやがんだ高尾に惚れた?あたりめえだ兄弟子のいうような、なあ、ほんなもの大名だってどうにもならねえものを職人風情がおめえ、くだらねえこといってねえで働けい!」

とこういってしまえばこれはもうおしまいの話なんでございますがそれはまあ苦労でなりましていろんな弟子を育ててまいりました親方でありますんで・・

「何を?高尾に惚れた?惚れたら惚れたでいいじゃねえか。ええ?買えよ。買いたきゃ買え!そんなもん花魁だ太夫だって言ったってたかだか女郎のちょいと上じゃねえか。どうってこたねえや、高尾だろうが八王子だろうがかまやしねえよ、ええ?いけいけいけ!」

「行けって・・・買えるんですか?」

「買えるんですかって、かえらあ。」

「いくらあると買えるんです?」

「うううん、まあそれだ。いくらあると買えるんですかって言われると、300女郎じゃねえからな。まあまあそう簡単には・・・まあどう安く見積もってもままあ・・10両、10両って話じゃねえわな。15両。15両なけりゃあダメだろ。」

「15両・・・・・15両って小判15枚の15両でしょ・・1枚もまだ手にしたことないのにそんなもの・・・あっしはどれくらい働いたら15両貯まります?」

「働いて貯めようってえのか?ほおお、まあそうな、そらあおめえは人の倍くらい仕事はできる、はええしうめえし、おう、そらまあ言ったって、いくらおめえが頑張ってみたって1年や2年ってわけにはいかねえやな。3年・・・4年・・・そらまあな、ただ、ただすき放題使って3年じゃあねえお。呑みたいもん我慢して、食いたいもん我慢して一生懸命貯めりゃあ、3年でなんとか15両、貯まるだろうな。」

「3年で・・・3年で15両貯まります?本当ですね、親方。わかりました。そうとわかったらなにもこうして親方と無駄な時を過ごしている場合じゃない。

ちょっとどいてください。」

ってすごい奴がありましてね。下へトントントンと降りますとおむすびを15、口の中に入れまして今までの飢えを全部補ってさあ働くのはいいですが

箸の上げ下ろしに至るまで、3年経てば15両、15両あれば高尾が買える、高尾が3年、3年が15両・・

「うるせえな、静かにしろよ!」

「へい、どうもすいません。」

なんてね、ええそのうちに去る者は日々にうとしとやら、ええ高尾とも言わなくなった、3年とも言わなくなった、15両とも言わなくなった、ああやれやれ、そんなもんは熱病みたいなもんだ。すぐに忘れちまうんだろうと思っておりましたら、あっという間に3年という月日がながれまして・・・

「おはようございます!親方!どうも!おはようございます!」

「おうおはよう。おおう、朝湯か。」

「へい、行ってきやした。へへい、ちょいと、こすってきやした。へへい。なかなか、いい男でしょ。」

「ああ、まあ自分でいい男って言ってりゃ世話ねえやな。今日は休みか。」

「ええ、あのう、おかみさんには以前から言ってあったんですが。」

「ああ、聞いてるよ。遊べ遊べ、休んで遊ばなきゃいけねえやな。人間な、仕事をするときは一生懸命、休む時は一生懸命休まないってえといい仕事はできねえって、おおう、あのな、カミさんに言って銭が足りなかったら少し借りて多めに持って、好き放題、上野でもどこでも行って遊んできな。」

「はい、ありがとうございます。ところであのう、親方に3年めえからあのうずっと預けておりましたあのう給金なんですけど、お、あれいくらになりましたかね?」

「あああ、よく言ってくれたあ、夕べだあ、おっかあと二人でもってそろばんパチパチ、ええ?驚いたぞお、なあ、人間やってやれねえことはねえぞ、なあ、いくら貯まったたと思う?18両2分だ。すごいねえ、塵も積もればなんとやら、塵じゃあねえけどよ、塵じゃあねえけどやってやれねえことはねえんだとかかあと二人で感心してたんだ。うん、ここだぞ久公、貯めるのは難しいのに使うのは簡単だ。こんだけ一生懸命かかったって使うときはぷっとなくなっちまう。ここでひとがんばり、1両2分貯めろ。するとしめて20両。そしたらな、着物の新しいの上下買ってやらあ。手土産持たせて、おふくろんとこ帰んな。一旦な。上総湊かってそう言ったろ。おふくろのとこ行って手つかずの20両そこへ出せ!赤の他人に千両万両貰うより我が子に貰う20両母親どれだけ嬉しいかわからねえ。孝行してこい。で、向こう飽きたら今度戻ってこい。戻ってきた時に、お前にこの店譲ってやらあ。なあ、ああ!他の者にはいいやなあ、他の者には他の者らしいことちゃあんとしてやるんだ。おれはただおめえのことが好きなんでな。夫婦養子ってえのかな、かみさんでも貰って、ちょいと、この後を継いでもらいたいと、そうおもってるんでな、な、いいかい、ここまでちゃあんと決まってるんだ、俺の頭の中でな。あとひと踏ん張り、1両2分貯めろ。で、20両、わかったな。がんばれよ!」

「はい!で、その前にそのうちの15両、使いたいんですけどね。」

「お前何にも聞いてねえだろ俺の話。こんなに一生懸命喋ったあとにそれはなんなんだよ。ええ?おめえが3年飲まず食わずで貯めた18両2分、そのうちの15両使いたいっていうのか?なんに使うんだよ。」

「な、なんだっていいじゃありませんか。」

「よかねえやな。何に使うか言ってみろよ。」

「いいんですよ、自分で稼いだ金なんですから自分で使いますよ。」

「なにを?嫌な言い方しやがんな。てめえで稼いだ金だからてめえで好きなように使う?はん!10年はええや、ばか!ちくしょうめなにをぬかしやがんだおれあ親がわりだ!俺のもとで貯めた金を俺が知らねえところで使われたんじゃたまったもんじゃねえや。ええ?15両何に使うんだ。言わねえんだったら使わせねえよ。」

「だだって、これあっしが貯めたお金じゃねえですか!。」

「おめえが貯めた金でも親方の俺が親代わりだからうんと言わなきゃ使わせないとそう言ってんだ。」

「てめえで稼いだ金がてめえで使えないんですか?」

「使えないんだよ。」

「・・・・・じゃあいらねえ!」

「いらねえ?ありがとお。おいおっかあ!18両2分て大金が入ったあ、おお、おめえたしか帯と着物が買いたいってそう言ってたろ。呉服屋呼んで来い、ずらっと並べて好きなの買いなよ。」

「だ、誰がやるっつったよ!」

「おめえ今いらねえってそう言ったじゃねえか。」

「はん!・・・はん!・・・」

「じれてんの。ばあか。オメエが稼いだ金親方のおれがどうこうするわけねえだろ。ええ?言ってくれよ、心配だからよ。15両ってどういう金だかわかってんのかおめあ。頼むから。なあ。なんかおめえにも考えがあるんだろうけれども。俺に話してくれ。」

「だ、だって、わかってんでしょ?」

「わからねえから聞いてんじゃねえかよ。」

「もおおお、頭悪いな・・・た、た、高尾買うんですよ。」

「何?鷹を飼う?おいよせそんなもんおまええ・・あぶねえこんなとこ乗せておまえ・・こんなんだぞおまえ、ぴーっていくとこんなんなっちゃうんだぞおまえ・・じゃあどうしても鳥が飼いたきゃジュウシマツか、メジロか・・・」

「どこの世界に15両出してここに鷹乗せて楽しいやつがいるんですかあ・・・あたしが18両2分貯めたうちの15両はねえ、三浦屋の高尾太夫に会いたい・・・・」

「お、お、お、おめえまだ覚えてやがったのか。執念深えやろうだなおいい、すっかり忘れてたおおそうかい、するってえと何かいおまえ3年前あたりに言ってた18両2分のうちの15両、一晩でぽんっと使おうってのかい?」

「いけませんか?」

「でえすきだそういうことは。うんん、羨ましいな。」

「じゃ親方一緒に・・」

「ばかやろう、おれが一緒に行ったってしゃあねえやな。おおそうかいいやあ驚いた驚いた。さあてと驚いたはいいんだがもうひとつこれは弱ったことになったいやいいんだ金はいいんだ、たんとじゃねえけど門前払いくわすほどの銭じゃねえやな。ちゃあんとしたものだ。が、駄菓子買いにいくんじゃねえんだ。銭だけもってこれだけあるんだからちょうだいよってわけにはいかねえ、ちゃあんとしたひとが間に入ってちゃあんとしてないてええと。弱ったなおれが行ったってなんの役にもたたねえし誰かいねえかちゃんと無効が口きいてくれそうな・・おい、あのう角のところに医者がいるだろ、あれ医者なんていった名前・・やぶいちくあん・・やぶいちくあん、すごい名前だねえ、あの医者、医者の腕はたいしたこたないんだけど、じょうろかいの腕は大したもんだって名人だって噂だからよ。とにかくあの先生呼んできてくれ。ええ?表を通る?どこ?おお!いいいい、おれが呼ぶよ!先生い!ちょっとこっちへ!先生!」

「はいはいはいはいはいいい、はいはいはいはいはいはいはいいい、はいいはい。」

「先生どっか医者に見てもらったほうがいいんじゃないですか。喉おかしいですよ。」

「おかしいんじゃありません、これが貫禄です。」

「ああ貫禄ですか。ああすいませんわざわざ入って来ていただいて。」

「はああ、病人はどこです?」

「あああ、病人だったら先生じゃあ呼ばないんですけどねえ。ここにいる久蔵、ご存知ありませんかねえ。ええあっしが一番目えかけてるうちの職人なんですがねえ。ええそのう、言いにくいんですがねえそのう、吉原いきましてねえ花魁道中見て三浦屋の高尾太夫に惚れたっていうんですよ。いやいやそりゃあままままあバカな話ですがね、そのかわり3年飲まず食わずで貯めた15両って金があるんですがね、先生これで一つ間に入っていただいてこいつをなんとか高尾に合わせてやっていただけないかと思うんですが、いかがなもんですかね?」

「はああ、そちらの久さんが。へえ。ほおですか。ふうん。で、いつ行きたいんですか?うん、今すぐ。これから。さっそく、まっすぐ。はああそうですか。じゃあ行きましょうか。」

「いやあ先生、先生病人とか患者とか。」

「いえ、そういうものは、生きるものは生きる、死ぬものは死ぬ。別にいいんですけどね。ただそのなんですね、このまんまじゃあたしと一緒に行って紺屋の職人ですと言ってもそら向こうで入れてくれるじゃありませんからなんか筋作らないといけませんね。えええじゃあこうしましょうかね、久蔵さんお前さんね、流山あたりのお大尽の若旦那ってことにしといてください、それであたしがそこの出入りに医者ということでね。ですから久蔵さんわかりますね、この筋で言うとあたしのほうがお前さんより下、あたしは出入りの医者だから、だから先生とか、やぶい先生なんて言うと向こうのほうで妙に思いますからいいですね。呼び捨てにしてくださいよ、おいやぶい、おいやぶいと呼び捨てにしてください。できますか。」

「それはちょっとお・・・」

「いいよ、先生がやれっていってんだから。やらなきゃ向こうに連れてってもらえないんだから、高尾に会えるんだったら呼び捨てくらいいいいじゃねえか」

「はあ。わかりました。まあやってはみます。おい、ヤブ医者!」

「・・・医者までいらないよ。それからねえ、そのお言葉ね、職人言葉で話されるといくら若旦那気取りで行ってもどうにもなりませんでね、ええ、どうしましょうかね。ええ重ね言葉がいいかね、なにを言われてもあいあい、あいあいと、この言葉がきれいでいいやね。なんか鷹揚でいいやね。あいあいあとね。それからその出てる手ね。そらあもう染物やってりゃ仕方ないどうやったって落ちるもんじゃない、でもその色見たらすぐ紺屋の職人てことがわかっちまいますからいいですか、まあこうやって袖の中にいれてくださいな。でこうやりながら何を言われても何を聞かれてもあいあいあいあいと、ま確かにバカっぽいけどねえ、でもまあいいと思いますよ。ええお願いしますよそれじゃみなさんでちょっと久蔵さん着替えさせていただいて・」

「じゃあ久蔵こっちきな。」

「久さんこっちきな。」

「久ちゃんこっちきな。」

てんでみんなで寄ってたかってこしらえて、

「どうです先生。馬子にも衣装、髪形、りっぱなもんでございましょ。なかなかいなせないい男だ、いいかい、これから先生に間入ってもらっておめえが3年かけてためた15両、これでいって振られるんじゃねえぞおまえ。何とかして想いを遂げてこいよ。なあ15両、ふいどこにするとばかみてえだからよ。振られんじゃねえぞ。振られるなよ。」

「へえ、大丈夫です。」

「ほんとだな?」

「大丈夫です。ごらんなさいよ外。いい天気です。」

「・・・・それじゃ先生、お願いしますよ。」

「はいはい、それじゃあ久さん出掛けようか。」

「やぶい!」

「まだ早えんだばかやろう!」

なんてんでね。ふたりが紺屋六兵衛のうちを出まして、お玉が池通り過ぎますと、上野、それから浅草、吉原へと、遊女三千人ごめんの場所と言われたそうでございます。ここから非常に辛いところに入っていくわけでございます。なぜならば吉原というところは今ないのでございます。赤線の廃止で無くなったのでございます。ワタクシが4つのときでございました。ですから、わたしが富山に居たから行けなかったんじゃなくて、年齢的に東京に居てもほとんで無理だったのでございます。ですから、今落語会で吉原に上がって実際女郎と話をしただの、やれ居続けをしたという人はごくわずかになってしまいました。ほとんどが吉原というものを知らない。当然おいでになっているお客様の中にもお年をめしたかたぐらいのものでございます。ほとんどの方がご存知ない。つまりここから繰り広げられるものは、知らない私が、知らないあなたに、わからないことをしゃべるということでございます。ですから皆さま方には今まで以上に想像力を逞しくして頂かないとこの先は続けていけないのでございます、まあその場所ということで申しますと非常に魅力的なところだったそうでございます。まあ囲われておりましてこのなかは文化の粋を極めたそうでございます。とにかく文化の中心がここだったということでございます。ね、ええ、ここからいろんな流行が発信されて街で流行って。うう逆でございます、いまでいうソープランドや風俗街そんなもんじゃございません、カッとしたひとつの世界がそこで繰り広げられた、誰もが憧れて、誰も軽蔑するものがいなかったと思っていただきましょう。誰もが憧れた場所、一度は行ってみいたい。また遊女といいますから風俗の極みだと思われるかもしれませんが、大正から昭和の初めにかけて文芸雑誌の表紙に使われたんだそうでございます。花魁というのは、太夫というのは。江戸っ子の憧れの的だったというわけでございます。

久蔵さん先生に連れられてお茶屋まで行く、お茶屋のおばさんが出てきて「どなたかよろしい方はいらっしゃいますか?」なんて聞かれた時に、こともあろうに高尾太夫をお願いしますと言われた時におばちゃんのほうはおおわあと驚いちゃう。そら確かに流山のお大臣というふれこみでございますから、それ相応の太夫や花魁は名指しはしてくるとは思ったけれども飛ぶ鳥を落とす勢いの高尾太夫に名前を言うとは思わなかった。だからといってびっくりしたからといってそれはダメというわけには参りませんし、「これからちょっと話をしてみますが、もしダメでもお気を悪くなさいませんようにお願いします。」と言って、おばさんが下がる。通して、高尾に話をきいてみると久蔵さん運が良かった、その日たまたま高尾が空いていた。空いていちゃしょうがありません、客を取らなきゃしょうがありませんから、また太夫の言葉を借りますと「いつも硬いお客はんばかりでつまりんす、たまにはそのような若旦那はんとお話がしとおござんす」、と言う。

花魁言葉里言葉、日本全国からいろんな女が売られて吉原にやってくる、そりゃあ京都弁みたいな言葉だったらいいですよ、なんかあっても「そうどすか」といわれると色っぽいですけどもね、ほらあ言葉まるだしでちょっと触ろうとすると、「おめえなにするだ!触ったらダメだっちゃっちゃー!」なんて言われると100年の恋も醒めてしまいますんで、言葉の終わりに「そうでありんす、そうざます、そうなんざんす。」と、まあこのそうなんざんすあたりは山の手あたりのおばさんにも少し残っておりますね。金縁の眼鏡を掛けて、糞詰りのチンかなんか連れて、お友達が目の前に居るのに船を呼ぶような大きな声で、「そうなんざんすのよお、うちの息子なんざんす、頭良いんざんす、産んだとき難産す。」なんて。

久蔵さん2階の12畳、継ぎの間付き、良い部屋でもって、大きな座布団の上に座って、「花魁は来る、来ないかもしれない、来る来ない来る来ない来る来ると、ぶつぶつ言いながら、どれくらいの時が経ったんでしょう、永かったんでしょうか。それとも永く感じたんでしょうか。そのうち5人のかおの衆に連れられた高尾が、うわ草履という厚い草履を履いて、ぱたんぱたんとやってくると、どすんと空いた横で、これが礼儀の横座りと言って、目線を合わせずこうやってお辞儀をされた時にもう久蔵は堪らない。そりゃそうでしょう。今みたいにビデオがあったり写真があったりグラビアがあったりいろんなものがあって自分の惚れたその女を毎日のように見ることができるんじゃない、3年前の花魁道中のときの記憶だけが頭の中に残って今日まで思いを詰めてきたその女が目の前で動いている。もうただただがたがたがたがたがたがた震えている。長煙管と言って、長ーい煙管でございますが、これを花魁持ちまして一服点けると、「主、一服吸いなんし」と言って出された長煙管、あいよと言って取ろうと思っても、先生に言われてる、この藍色に染まった手が出ちゃいますんで、と言って口で受け取るには長いなというのがありまして、しょうがないもんですからこれを受け取ると、火玉の踊るほどぷーっと済ましてこれを返す。何を言われても何を聞かれても「あいあい」としか答えないこの純朴な青年のどこに高尾が惚れたのか、またそれが性なのか。見事に久蔵を男にしてくれまして、夜が明けると祈った、時よ止まれと祈った久蔵の願いも虚しく夜が明けて、花魁は立ち上がると、うがい手水に身を清め、まあ男に寝顔を見せなかったそうです、昔の女の人は、昔の女の人は。別に繰り返すこともないんですが。久蔵だって起きてるんです。寝られるわけがありません、時よ止まれと祈ってた人間が寝れるわけあない、ただ目が覚めてるんだけれど起きていいものか、起きたってなにしゃべっていいのかなにしたらいいのかわからない。ただただ布団のなかでがたがたがたがた震えている。「主、目覚めの一服吸いなんし」と言われて、これがきっかけだと思うからまた火玉の踊るほどこれを吸ってこれを渡す。

「主、次いつ来るんざます。」

「・・・あいあい。」

「いつ来るんざます。」

「あいあい。あいあい。」

「いつ来るんざます。」

「さ、三年たったら来ます。」

「3年?永うござんす。他のお客はんは明日来るの明後日来るのと言いなんすに、なぜ主だけ3年。」

「い、いや、なぜ、、働いてお金貯めるんです。」

「働く・・・」

「いやあの、、すいませんあの、騙してました。いやあの、話ちょっと聞いてください。ええ、このまま黙って騙したまんま行こうと思ってたんですけどダメだ、そんな目でそんなこと聞かれるととても嘘つけない・・・あ、あれなんですよわたしあの、流山のお大臣でもなけりゃ、若旦那でもない、紺屋の職人なんですよ。」

「職人・・」

「そうなんです、実は3年前に花魁道中で初めて花魁を見て、一晩でいいから話をしたいって言われたら兄弟子みんなに馬鹿にされてうちに帰って寝ようと思っても眠れなくて、だんだん飯も食えなくなっちゃって、もうみんな死ぬぞ死ぬぞって言ってたんですけどもう死んでもいいって思って、どうにでもなれって思ってたんですよ。そしたらうちの親方っていう人がとっても良い人で、3年働け、3年働いて15両貯めたら会わしてやるってそう言いましたんで、必ず会わせてくれるもんだと思って一生懸命働きましたええ。そんで、近所の医者間にいれてくれて、会わせてくれたんです。ええ、ですからもういっぺん会いに来るためには3年働かなきゃなんねんです。でもなんですよね、飛ぶ鳥を落とす勢いの全盛の花魁、3年経ってから来てみたって、必ずどっかにお嫁に行ってる引かれてる当たり前のこってす。ですから、今日は、初めで終わりなんです、へえ。ありがとうございました。騙すつもりはなかったんですけど、こうでもしないと会えないとみんなが言うもんで仕方がなく・・へえすんません、申し訳ありませんで・・・ただあの、いや、騙しといてこんなこと言うのなんなんですけど、ひとつだけ頼みがあるんですが、おんなじ江戸の空の下です、生きてりゃどっかでまた会うこともあるかもしれません、そんときは、木で鼻くくったようにして、ぷいっと横向かないでください、一言で結構でござんす、目を見て、久さん元気?って言ってもらえませんかね。それだけでいいんです。今度はそれだけを頼りに生きていきますんで。ほんとに花魁、騙してすいませんでした。」

「主、今の話本当ざますか。」

「ホントも嘘も、こんなことわざわざ嘘つくってばかいません。ああ、これ見てください・・真っ青でしょ、これあの染物毎日やってるとどうやっても落ちないんですよ。ええ、こんなのやると、見せるとすぐにばれちまうから袖の中にいれてろって言われて昨夜からずーっと袖の中に入れてたもんでもう痺れて痺れて。いまもうどこにあるかよくわからないんですよ・・・・ほんとにすいません。」

「あちきは来年3月15日年が明けるんざます。そのときは眉毛を落として歯にかね染めて、主のところにまいりんす。」

「あいあい。あいあい。」

「主のところにまいりんす。」

「ま、ま、まいりんす。」

「あちき主の、女房はんになりたいんざます。」

「にょ、にょ、女房はん?女房はんて、女房はんて、女房!ははん、あっしがですか!?」

「主の正直に惚れんした。わちきのようなものができたからには2度とこの里に足を踏み入れてはなりません。」

と言って立ち上がる、タンスの引き出し30両、袱紗に包んで後日の証拠として久蔵に渡す。亭主の待遇で送り出された。さあ久蔵は何が何だかわからない、とりあえず店には着いたものの、

「cfrjpmyh@4」g3r「fprk「rt「p6「pl。4ぇf「rt。「y。「「brlp」

「日本人か?おい、ええ?誰?久蔵?ああ久蔵か、おかしくなって帰ってきやがった季節の変わり目はみんなそう・・・そうっと開けるんだぞ、な、急に開けるとすぐに飛び込んで・・・ああ来やがった、ばかなんだ、飛び込んできて!」

「あ、あ、あ親方、行って来ました!行って来ましたよ!」

「おう、そらそうだろうな、行ったから帰ってきたんだ、そらいいんだけどよ、そうかい、だけど偉えな、おめえはええ?普通のもんじゃそうはいかねえや。あんないいところ行った日にゃあこんないいもんだとは知らなかったてんで二晩三晩と居続けてもおかしくないところ、一晩でぴたっと帰ってくる、それはおめえは偉えな。また働いてよ、気が浮向いたら行きな。え、どうだい、高尾に会えたか?高尾に会えたかよ。」

「あ、会えました。」

「会えた?・・・まあ、こんなこと言うとおめえに悪いが、本物じゃねえだろう、名代かなんか来て・・・」

「本人が来ました。ええ、親方にもよろしくってそう言ってました。」

「言うかおめえそんなこと!でも良かったなあ、15両貯めた甲斐があったな。」

「ええ、なんかいろんなこと言うんですよ。あいあいしか言わないつもりだったのになんかいろんなこと言ってました。」

「へえ、どんなこと言ってたんだい」

「なんですかね、『主の正直に惚れんした』、なんてこんなこと言うんですよ。んで、『来年3月15日、年が明けたら主のところに参りんす』、なんて、こんなこと言うんざんすよお、わちきはどうしたらいいんでありんしょ」

「張り倒すぞおまえばかおまえ。女郎の手練手管。なんで花魁ていうか知ってるか?狐狸は尾っぽでもって人をばかすが花魁は尾っぽもいらないで人を騙せる尾はいらない花魁ていうぐらいのもんだ、なあ。そんな言葉に乗っかっていくってえとケツの毛まで抜かれちまうんだ、いいよいいよ、なにが?嘘だってのいうのそういうのは。なにが?金もらったあ?なに、いくら?30両?見せてみな。あれ、ほんとにあるよ30両。それおめえにくれたんじゃねえだろうそれえ。おれにくれたんじゃねえかあ?」

「なんで親方に・・・」

「わかってるよお、おめえ、なんだか気持ち悪い金だ、とにかくなんでもいいや、かみさんにでも渡してとにかく先生に訳聞いてみなきゃ。おい、先生っていやあ先生どうした?」

「置いてきた。」

「置いてきた!まあいいや、まああの人が来るとまた死人が増えるからまあ置いときゃいいやそらあ。とにかく、くだらねえこと気にしねえで働け働け!」

「働きます!」

てんでさあ働くときたら大変でございます。何をするにしてももう来年3月15日高尾が来る来年3月15日おや来年3月15日っつってるから誰も久蔵とか久公とか呼ばなくなっちゃって。

「おう!来年3月15日!こっちこいよ。」

「どうも、お呼びですか。あたしが3月15日」

なんてね、言いながらそのうちにその年が暮れまして、明けた年、睦月、如月、弥生と来ました半ばの15日。紺屋六兵衛のうちの周りが妙に騒がしいなと思っておりますと、一丁の黒塗りの籠が、えっほえっほえっほえっほ、六兵衛の店の前にぴたっと止まる。

タレが上がると一番の丸髷でございます。眉毛を落として歯にかね染めました、高尾が、

「丁稚どん、この屋に久蔵はんというお方がおりんすによって、わちきが来たと伝えてくんなまし。」

「おおおおおおおおおお!親方大変ですよ!」

「津波か?」

「津波じゃありませんよ!来年3月15日がきましたよ。」

「なあにいい?ばかかおみゃあ!今年の3月15日が今日・・なにを?高尾がきた?おおおおおおおお!久蔵!大変だぞ!」

「津波ですか?」

「おんなじこと言うなおめえ。高尾がきたぞ、高尾が」

「高尾が来たってまた親方も他の連中とおんなじそういうこと言ってからかう喜ぶと思ってるんですから、へえ?ほんとに来たんですか?高尾が?あららららららら嘘だと思いますけどほんとに?あそうですか、へええええ・・・」

「おいおい倒れんじゃねえよおまええは!高尾だよ!」

「高尾おおお!」

てえと親方の頭をぽんと踏み台にするってえと土間のところにほっぽり出して、

「花魁・・・・」

「久はん。3月15日ざます。」

「ありがとうございます。」

本当でしたら口の悪い職人が揃っておりますんで「よおよおよおよおご両人」とかね、「待ってました」とかなんかいろんなことを言いそうなもんでございますが、そのときばかりは二人を見ていたらなにも言えなかったそうでございます。

親方が間に入りまして祝言をあげまして、飛ぶ鳥を落とす勢いの三浦屋の高尾太夫が紺屋六兵衛のうちへ入って染物を始めた、さあこれが江戸の大評判!

「聞いた?」

「聞いたよ。冗談じゃねえよ、すごいね高尾って女はよお、大名がほうぼうから千両箱いくつも積んでお願いしますって来ただろうよ。それ全部袖にして紺屋のとこに来ちゃった。いったまた久蔵てのがすごいらしいね。」

「すごいよお3年の間うんと貯めといて一発でどん!俺たちは毎晩ちびちびびちびちび。これからは貯めてどん、ためどんだな。」

「ああ、会いたくてよお、店の前まで行くんだけど染めもん持ってねえと中に入れてもらえねえんだよ。だからよおしょうがねえから家にあるもの染めて染めて染めてさあ、気がついたらなんにも染めるもんがないんでねえ、今日これから俺いくんだけどさあ、ほら!ふんどし染めよう思って!」

「ばかだなあおめえは。」

門前市を成す、それは大変なもんでございます。そらそうです。まだ身分制度のあった頃、ちょうど今で言いますと、トップ女優が、落語家のところに嫁にくるような、そんな図式でございます。お時間でございます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です