落語の台本。志の輔師匠の「風呂敷」です。

先週の土曜日は、なやばし夜イチさんにて落語でした。

日本酒祭りということで、桜の木の下、皆さまお酒を手に楽しんでおられました。

ワタクシはお店の営業が狩猟してから駆けつけて、20時頃に出番。

知った顔が何人かいらして、アウェイなワタシも強かったですな。

 

今回は志の輔師匠のものを参考にした「風呂敷」を。

この演目は2回目ですが、前回はあまり覚える時間がなかったものですからちょっと荒さがありましたので、今回はリベンジという心持ちもありつつの高座です。

途中で今までにないくらいに噺が飛んじゃって頭が一瞬真っ白になったんですが、「ここで止めてはいけない!」という思いでなんとかかんとか噺を繋ぎつつ、その間に噺を元に戻すという、我ながらなかなか見事な修正ができたと思います。

こんなこともありましたが、全体的には今までで一番良かったと言ってくれる方もおりましたので、少しづつではありますが上達できているのかなあと思っております。

 

そんな訳で、またもや落語をやってみたいという方のためにワタクシの文字起こしをした「風呂敷」立川志の輔師匠ヴァージョンをこちらに。

今回の「まくら」も添えて・・・・

 

 

「風呂敷」 立川志の輔

皆様こんばんわ。一人でもトリオの大橋亭トリオでございます。

えー、そんなわけで文春砲がまたまた炸裂したようでね。小室哲也さん、キョンキョンときて高橋由美子さん、で再び山尾しおり議員と。

まあはっきり言ってどうでもいいですな。芸能人も不倫がどうのってのは。常識とか非常識とかってことじゃないんです。ね。

だってね、不倫が非常識だなんて言ったってね、芸能なんて商売がそもそも非常識ですよ。ねえ。芸能人になろうなんて人に常識語ったってそんなのも、え?天気に向かって、『雨なんか降らせやがって!今日は夜イチだぞ!』なんて文句いうようなもんですよ。聞いてます?

政治家だっておんなじです。政策をきちっとやってればいいんですよ、プライベートなにしてようと。ただ山尾氏の場合は違います。あの方与党議員の方が不倫した時に先頭に立って非難してましたからね。自分はいいけど人は駄目、という姿勢だから批判されるわけですよ。

まあね、いつからこういうふうになったかっていうと明治以降だそうですな。西洋文化とともにキリスト教が入ってきてね、貞操という観念が生まれたそうです。それまで日本人は割りと性には自由だったそうですよ。愛、という概念もキリスト教からだそうですからね。んん、でもまあ自由たって堂々と浮気してもよいってわけではなかったそうですけどね。。浮気するときは専ら亭主が留守の間に男を呼んで、みたいなね。山尾議員もね、ホテルとかじゃなかったそうですね。相手の自宅。なんでかって聞いたら、誰かに見つかった時に、『仕事の話をしてたんですよ』と言えるから、らしいですねえ。そりゃあ確かにホテルだなんだだと言い訳になりませんからね。

まあそんなわけで、昔も今も、いろんな工夫をしながら、あの手この手を凝らして、ということなんでしょうけどね・・・・

「もう兄さんお願いしますよ助けてくださいなねお願いですも大変なんですよ助けてくださいお願でございます大変なんですから!」

「うるさいななお前ははいってくるそうそうまあ。ええ?どうしてそうけたたましくはいってくるの?仮にもおまえは女だよ。もうちょっとこうおしとやかに入ってきたらどうなんだ。後ろを見てみな後ろを。お前の脱いだ下駄を。片方はかろうじて玄関に入ってるけど、もう片方は道の真ん中にあるじゃねえか。どういう歩幅だお前の歩幅は。お前のようなやつを出したいね。次のアトランタの三段跳びに。」

「ええ大変なんですもん兄さん!」

「わかってるよんなことは大変大変て。いつものように犬も食わない夫婦喧嘩なんだろ。」

「いやそうじゃありませんよ。そらね、確かにいつもは犬も食わない夫婦喧嘩ですよ。でも今日のはちょっと違うと思うんです。ええ。今日はちょっと犬は考えると思いますよ。ちょっとだけでも食べてみようかなと思うような、そういう揉め事なんですよ。」

「変なこというねえ。なんだい?」

「実はね、うちの人が今朝ちょっと仲間の寄り合いがあるからというので早くに横浜に出かけたんです。でね、横浜でもって帰りが遅くなるだろうからおまえ先に寝てていいよって言われたんであたし夕方時分から湯う行ってねえ、ゆうっくりうちでお茶飲んでたんです。そしたらそこへねえ、あのう、新さんが訪ねてきたんです、うちの人。」

「ええ?あの色男の新公が。でどうしたんだい?」

「でね、いないとわかったら帰るってそう言うから、せっかく来たんだからお茶くらい飲んでったらというんでふたりっきりでお茶飲んでたんですよ。そしたらさっきの夕立でしょお、あたしもうねえ、せっかく綺麗にした玄関吹き込まれるの嫌だったもんですから戸お閉めましてね、上がり直そうとした時にうちの人が、どんどんどんどんどーん、俺だあ、今帰ったあ、て酔っ払って帰ってくるじゃありませんかあ、、もうあたし驚いちゃってえ。」

「おいよせおいい。亭主が帰ってきたんだろ?亭主が帰ってきて驚いてた日にゃ生涯驚いてなくちゃならねえぞ。」

「だってえ、遅くなる遅くなると言ってた亭主が早く帰ってきたんですから驚くじゃありませんかあ。」

「またおめえは訳のわかんねえこと言うなあおい。遅くなる遅くなると言ってた亭主が早く帰ってきたら喜べよおまえ。驚くというのは、ちょっと行ってくるぜと言って3年帰らないのを驚くというんだおまえ。」

「だって兄さん分かってんじゃありませんかあもううちの人のヤキモチ妬きい。もうそんじゃそこらのヤキモチ妬きじゃありませんよもう、もうあたしがちょっと男の人と立ち話してるだけだってかあっと怒っちゃいますしねえ。隣の犬がポチがオスだってだけで、頭なでて3日口きいてもらえないのよお。そういう人なのよお。そういう人がよ、うちにあの色男の新さんを置いてふたりっきりで戸を閉めてお茶を飲んでたなんてことがわかったら、なにもありゃしませんよ、なにもありゃしませんけどね、どんな、目にあうかわかんないと思ってあたしもう、すぐにね新さんを押し入れに隠して、それでうちの人を入れて、でうちの人を寝かしてから新さんを押入れからそうっと逃がそうと思ってたらまたうちの人がその押し入れの前にあぐらかいて寝ないのよお、新さんだって生き物ですよお、中で酸欠状態になったら困っちゃいますしねえ、それにあくびもすりゃおならもしますう、それにだんだんお腹がすいてくるでしょう?お腹がすいてなにか作りたいと思ったってうちの押入れ台所がないのよお。」

「くだらないこと言うなおみゃあ、ええ、でどうしたんだい?」

「すぐにお酒を買ってくるからと言うのでとりあえずうちを飛び出してきて兄さんのところにきたんですけど、お願いしますよお、新さん助けてあげてくださいな、ねえなんとかしてくださいなあ。」

「うるせいなほんとにまあ。ええ。だからおまえは浅はかだってんだい。」

「ええ、ここ麹町ですよお。」

「誰が赤坂だって言ったんだこのバカ野郎おまえええ?浅はかだ、いいか、お前がそのつもりでいても、なんの疑いのないことをしているつもりでも周りから見るってえと人はどう思っているかわからないってことがわからないのかい。李下に冠を正さず瓜田に靴を入れずってな。」

「へえ、なんの呪文です?」

「呪文じゃねえや。ままとにかくそういうことだ。梨畑でもってなんかこう被り物を直してるつもりでも遠くから見ると梨を盗んでいるように見えるってんだい。李下に冠をかぶらず。わからないかなあつまりこういうことだ。な。ええ湯船で体を揺すらず、酔って電柱の前に留まらずってんだ」

「なんですそれ?」

「だからな、熱い湯船の中に入ってちょっと自分は体をこう動かしただけのつもりでも外から見てるとあ、あいつはお湯の中でおしっこをしたなとこう思われるということだ。ん、酔って電柱の前で佇んでいるだけでもおまわりさんが見るとあれは立ちションベンをしたあとじゃないかと思うというような、そういう自分がしたことと周りは違うって、まま、どうでもいいよ、そんなことお前と話したって。わかったよ。ええ、で?酒を買ってくるってでてきたのか。わかったわかったそれだったらな、とにかくあの、先帰ってな。」

「先帰ってなってねえお兄さん一緒に行ってくださいな。」

「一緒にいってくださいなって一緒に行けるわきゃねえだろこのバカ野郎。一緒にいきゃあおまえ必ず向こうで言われるよ。なんだって、もってふたありで来るんだ、おまえたちまたなんかできてんじゃねえかなんだかんだいろんなこと言われるから。いいからお前が先に行ってな。後から俺が何とかするから。」

「ほんとですね。お願いしますね。お願いします。お願いします。」

「やめろ、その手をついて頭を下げるのは。毎回来るたんびに同じとこに手えつくから見ろおまえ。畳が手形の分だけへこんじゃったあ。この前そこで躓いたおれはバカ野郎。ほんとにまあ、いい分かった行ってろ行ってろ行ってろってんだ!たくまあしょうがねえなあ人をなんだと思ってやがんのかねえ。困ることがあるってええとすぐ俺んとこ来やがる。まあいいやな。今日のところはこの風呂敷でなんとかするか。んん。ええー、おお、四、五間前からまあ大きな声が聞こえるよ、だいぶ酔ってやがんなあのやろうほんとにまあ。お、ちくしょう、手あげてやがん、おい、よせ!おい!やめろやめろ1おい、やめろ!やめろってんだ、殴ったりするんじゃあないってんだ!」

「絵rfjpv35tkpうぇllfc「pdwlfc、dlfv。エェ。えf、lf・4d!」

「おい何人だオメエはよお!なんなんだおめえは!」

「jgおprwロkp、わおわお、源さん、源さんかいやいや、聞いてくれ聞いてくれ、聞いてくれたら俺の怒るのもわからないではないよ。んん、いやおれあね、今日ねえ、これほどうちの女房がわけのわからない女だと思ったことはないよ。」

「ほおん。どうしたんだい。」

「俺ね、ちょっと横浜の方まで仲間の寄り合いがあっから行ったんだ。思ったより早く終わって一杯引っ掛けてけえってきた。もう夕暮れ時分だってのに戸がしまってやん。どんどんどんどん今けえったぞと中に知らせたら、うちのかかあが戸を開けて、まるで俺を親の敵をでもみるような顔で、ああたあ、ずいぶん早かったわねえ、早かったからもう寝ましょう。こんなこと言う。これはどこの国の言葉だ。遅かったからもう寝ましょうってならわかる、早かったからもう寝ましょう、こんなわけのわからない女ってんで俺は急に機嫌が悪くなっちゃってさっきからずっと飲み続けてんだ。」

「ああそうか。そらまあええ?おめえの機嫌が斜めになんのもわからなくはねえな。」

「ああん、で、源さん、どこ行ってたの?」

「俺かい?俺はちょいとな、友達の揉め事があったんでそれをまあ収めて帰ろうと思っておめえのうちの前通ったらおめえがでかい声出してやがるから、ええ?っこんなことやってるからこらいけねえなって思って中に入って止めに入ったってところだい。」

「ああん、揉め事お?ふうん、お、面白いね、ど、ど、どういう揉め事?」

「いいよんなこた。たいしたことねえよから。」

「そんなこと言わないで、人の揉め事ほど面白いものはない。教えてもらいたいどどどどういう揉め事?」

「しつこいねえ飲んでるとほんとにまあ、ええ?いやおれの友達がよお、今日ちょいと仲間の寄り合いがあるからってんで朝早くにな、横浜の方に出掛けたんだよ。」

「ええ?似たような話だなあ。」

「おお、そういやそうだな。でまあ、遅くなるから先に寝てて構わねえぞって言われたんでカミさんがゆっくりまあ湯でも行ってほいでもってまあ茶あ飲んでた。そこへな、まあ、友達というか、色男というか、ちょいと若いのが訪ねてきたんだ、その亭主を。ところが亭主が留守だってんで帰ろうとするとまあ、いいじゃありませんかお茶の一杯もというんでふたありで茶あ飲んでるときに夕立だ。しょうがないもんだから玄関をしめてまた上がりなおそうとした時にそこの亭主が酔っ払って帰ってきたってんだよ。」

「おお?そらまずいなそらはなあ。おお、でどうしたんだい?」

「大変なヤキモチ妬きのその亭主にな、そらもう見つかっちゃいけないというのでその色男をまあ押入れの中に隠して、そいでもって亭主を中に入れて寝かせようと思ったらその亭主がまた押入れの真ん前にあぐらあかいてうだうだいって、寝ねえってんだよ。」

「たちのよくねえ野郎だな。はああん。で、どうしたの?」

「おう、だからそれをちょいと逃がして、おお、帰ってきた、その帰り道だてんだ。」

「あり。それ逃がしたの?押し入れにいtれその前に男がいて、っすごいねおもしろいね。ど、どうやって逃がしたの?ねえ?だって聞きたいじゃねえかなあ!」

「そんなこたどうでもいいからよお、おれに一杯飲ませてくれよ。」

「いやいやあちょちょいとさあそれ聞かせてくれたら飲ませてやるからちょいと聞かせてもらいてえな。」

「たくまあ酔ってるとなんだか訳わからねえなあ。ええ?聞きてえの?話しゃあいいの?飲ませてくれんの?わかったわかったじゃあな、ま、早い話が、この、風呂敷いちめえだ。これを、こう、だあああっと広げたと、この一枚でもってなんとかしてきたんだ。」

「へえ、その風呂敷一枚でなんとかなったの。へええ。どどどどどういう具合に?どういう具合に?」

「ったくしょうがねえな、この風呂敷をな、じゃ仮におまえを亭主としようや。な、そいで亭主の頭にたああとこう被せたんだ。被せて四隅をこうもってだな、でここを首のところでもって、こ、こう結わえた、んん、な、見えねえだろ?見えねえだろ?そうそうそうそうそいつも見えないってそう言ってた。んん、でな、見えないてのを確認しておいて、おれは後ろの押入れの戸を、すうっと開けて中を見るってえと、その色男が中でぶるぶるぶるぶる震えてやんの、おおん・・・出ろよ。出ろよ!早く出ろってんだ!とまあこう言ってやったんだおれあなあ、んんんん。そしたらまあ這いながら出て行くんだ、んん、忘れ物はねえのか。忘れ物はねえのかってんだよ。忘れ物があると大変だから言ってんじゃねえか。ねえのか?ねえならいいや。とまあこう言ってやったんだ俺がな、んんんん、と忘れ物はねえようなんだなあ、んん、いいよ、下駄なんぞ履いてる場合じゃねえやな、手で持て手で、ちぇ、この最中に下駄なんぞ履いてる場合か、いいよ、わかった挨拶なんぞどうでもいいからおお、そうすうっと戸を開けて、そうそうそう、開けて、いいよ挨拶なんか後でいいってんだ、うん、そうそうぴたっと閉めてけよ、ぴたっと閉めたな。よし。と、まあ、向こうが出たのを確認をしてからこの風呂敷をすっと解いて、ぱああっと取ったと。ま、こういうわけなんだ。」

「うめえことやりやがったなおいい。ほら驚いたなおい。それに源さんおめえの話はうめえや。おらこうねえ、あたかもその男が通ってくような気がしたあ、おおお。それに空耳かなんだか戸が開いて締まるような音まできこえた。源さんお前さん話がうめえやそうかいたいした知恵じゃねえかなあ、でも大した知恵だったってそれぐれえのことで隠れてた男を逃がされるような亭主のツラがみてえや。」

落語の台本。今回は立川志の輔師匠の「紺屋高尾」です。

ワタクシ、噺を覚えるのに、youtubeなんかで聴きながら文字起こしをするんですが、これがなかなかに大変なんです。

めっちゃタイピングが早ければ訳ないんでしょうけど、ブラインドタッチも出来ないのでまあ時間がかかるわけです。

そんな大変さを分かっておりますので、落語をやりたい!という方のために、ワタクシが文字起こしをしたものを載せたいと思います。

まあ一語一句完璧に、って訳にはまいりません。

大体こんな感じかなっとふんわりしているところもありますが、それほど覚えるのに問題はないかと思います。

あと、極力わからない言葉は調べておりますが、それでもわからない言葉もありますので、そのあたりは「こんな感じでかな」で書いております。

 

今回の落語の台本は、立川志の輔師匠の「紺屋高尾」です。

これは何度聴いてもグッとくるお噺。

ぜひ。

 

「紺屋高尾」立川志の輔

「とめこう!」

「へい。」

「久蔵どうしてる?」

「寝てます。」

「何を?」

「寝てます。」

「寝てる?ほおん。風邪か?」

「いや、なんだかわかんないんですよここ3日ばかり飯食わねえんですよ。」

「飯食わねえ?そりゃいけねえな。おうわかった、俺がちょいとみてくらあ。」

どんどんどんどん・・・

「おい、久蔵!開けるよ!開けるよ!返事がねえな。開けるぞ!おいなんだよ。患ってるってな。」

「はああ・・・・」

「なんだいお前・・誰が森進一やれって言った。ええ?風邪か?ばかおまえ、いい若いもんがなんだ、ええ職人が風邪ひいたってそんなとこ寝込んだって、はあはあ言って同情買おうってんじゃねえんだ。ぽおんと起きて町内駆け回ってみいな。とおんと、風邪なんか吹っ飛んじまうぞ。え?それとも何か?医者呼んでこようか。薬買ってこようか。どうする?」

「わたしの病は、医者や薬じゃ治らないんです。」

「医者や薬じゃ治らねえ?へえ、だけどわかってんだ。それで治らねえってことをわかってるってとこをみると、おめえはおめえで自分の病がなんて病かわかってんだ。言ってみな。なんて名前の病気だい。」

「わたしの病気はねえ、お医者様でも草津の湯でもってんですよ。」

「・・随分なげえ名前の病気だなおい・・・お医者様でも草津の湯でも・・どっかで聞いたことのある文句だな。お医者様でも草津の湯でも、惚れたやまーいが。おい、それじゃなにか久公、おめえのその病ってのはフナのかく乱ナマズの脚気、恋の病で恋煩いか?」

「はああああああ、はあああいい。」

「何を言ってんだろうね。ばかおまえ、なんだって思うじゃねえか心配しちまって。ばあかおまえ、ほんとおにまあ、恋煩いなんてのはいいか?どっかのおまえ、大きなお屋敷のお嬢さんが誰か男に想いをかけると、声に出して言えないと、言えないからどんどんどんどん体の中にたまっちまう、たまっちまうから飯が食えなくなる、だんだんだんだんやせ細っていく、病気になる寝込んじまう、これを恋煩いというんじゃねえか。どこの女だ、名前を言ってみなよ。」

「親方にどこの女だなんて聞かれると面目なくって穴があったら入りたいくらいなんですよ。」

「俺に、名前を聞かれると、面目ねえ・・ええちょっと待て待て待て・・・俺に聞かれて面目ねえ・・ああわかった!言わなくていい、ここが違うここが。おいい!おたけ!こっち上がってこいよ。上がってこいっていいよ飯の支度なんてどうだって。いいよ洗濯物なんて、上がってこいよ、こっちへ。ったく、だから言ってんだよ普段から。可愛がれって弟子は。可愛がれはいいけど可愛がりすぎると勘違いするっそう言ってんだろ。おめえに恋煩いだってよ。どうする。こんなもんでもはいそうですかってくれてやるわけにいかないんだよ。なあ。どうしよ。日の交代にしようか。1日交代って。それとも、昼夜の交代にしようか。え?俺が昼ならおめえが夜とか。え?どっちがいい?」

「そんな、おかみさんなんかに惚れるわけないじゃありませんかあ・・」

「あ、違うのか。なんだなんだ違うんだってよ。なにしに上がってきたんだ降りてろ降りてろ。で、なんに惚れたんだい。」

「大名道具に惚れたんですう。」

「なんだい。人間かと思ったら道具かい、大名道具?大名道具ってえとなんだい?刀や?え?槍か?てえほうか?」

「てえほう?そんなもんに・・・・」

「おいおいおいいい加減にしろよおめえ。わざわざおれが馬鹿になって聞いてやりゃあ話しやすいかと思って聞いてんだい、いい加減にしろ本当に。ええ?心配なんだよ、おめえが言わねえってえと。3日も寝こんでで飯食わねえってほんとに死んじまうぞ?え?言わねえといけねえやな。なんだよ。言ってくれよ。心配なんだよ、おれあおめえのことが好きなんだからよ。」

「はい、あたしが言わないのが親方に心配かけてるっていうんでしたら言います。今から10日ばかり前なんですが、あたくしあのう、兄弟子に連れられて初めて吉原てところんに行ったんです。」

「初めて?おめえたしか25だろ?初めてってえな遅えな。え?どうだったい?」

「きれいなとこなんですねえ、夜行ったのにもう・・・・・明るいんですよお。」

「おう、不夜城ってくれえのもんだ。どうだい?なんかおもしれえもんでもあったかい?」

「花魁道中ってもんに出くわしました。」

「おお、いいもん出でくわしたな。めったに見れるもんじゃねえやな。よかったな。」

「綺麗な女ですねえ。まるで天人が天下ったような綺麗な女か次から次へと出てくる中にい、一際目立つ、いい女ああ・・」

「おまえ起き上がってどうしようってんだ・・・病が吹っ飛んじまったろ。ええ?誰だい?」

「誰だって聞いたら三浦屋の高尾太夫って言うんですよ。こういう綺麗な女の人と一晩でいいから話がしたてみたいって兄弟子に言ったら笑われて、『ばあか、こんなの大名道具って言って、大名だって頼み込んだってかぶり横に振られりゃあうんともすんとも言えねえところ。それを職人風情が及ばぬ恋の滝登り、家帰って小便して寝ちまえ』ってそう言われて、それからああたしゃあ家帰って小便まではしたんです、小便まではしたんですけど後眠れないんですよお。天井見ると天井に高尾の顔が、壁見ると壁に高尾の顔があ、飯食おうと思うとご飯の中に高尾の顔があ・・・今こうやって親方と話していると・・親方が高尾に見えてきた・・・親方あ」

「気持ち悪いなおいい、よせばか!ええ?なあにを言ってやんだろうねえほんとにまあ。ええそれで?恋煩いで、寝込んで、飯食わねえで、ひょろひょろになって、ええ?死ぬかもしれねえってばあかかおめえはほんとうにまあ、何をいってやがんだ高尾に惚れた?あたりめえだ兄弟子のいうような、なあ、ほんなもの大名だってどうにもならねえものを職人風情がおめえ、くだらねえこといってねえで働けい!」

とこういってしまえばこれはもうおしまいの話なんでございますがそれはまあ苦労でなりましていろんな弟子を育ててまいりました親方でありますんで・・

「何を?高尾に惚れた?惚れたら惚れたでいいじゃねえか。ええ?買えよ。買いたきゃ買え!そんなもん花魁だ太夫だって言ったってたかだか女郎のちょいと上じゃねえか。どうってこたねえや、高尾だろうが八王子だろうがかまやしねえよ、ええ?いけいけいけ!」

「行けって・・・買えるんですか?」

「買えるんですかって、かえらあ。」

「いくらあると買えるんです?」

「うううん、まあそれだ。いくらあると買えるんですかって言われると、300女郎じゃねえからな。まあまあそう簡単には・・・まあどう安く見積もってもままあ・・10両、10両って話じゃねえわな。15両。15両なけりゃあダメだろ。」

「15両・・・・・15両って小判15枚の15両でしょ・・1枚もまだ手にしたことないのにそんなもの・・・あっしはどれくらい働いたら15両貯まります?」

「働いて貯めようってえのか?ほおお、まあそうな、そらあおめえは人の倍くらい仕事はできる、はええしうめえし、おう、そらまあ言ったって、いくらおめえが頑張ってみたって1年や2年ってわけにはいかねえやな。3年・・・4年・・・そらまあな、ただ、ただすき放題使って3年じゃあねえお。呑みたいもん我慢して、食いたいもん我慢して一生懸命貯めりゃあ、3年でなんとか15両、貯まるだろうな。」

「3年で・・・3年で15両貯まります?本当ですね、親方。わかりました。そうとわかったらなにもこうして親方と無駄な時を過ごしている場合じゃない。

ちょっとどいてください。」

ってすごい奴がありましてね。下へトントントンと降りますとおむすびを15、口の中に入れまして今までの飢えを全部補ってさあ働くのはいいですが

箸の上げ下ろしに至るまで、3年経てば15両、15両あれば高尾が買える、高尾が3年、3年が15両・・

「うるせえな、静かにしろよ!」

「へい、どうもすいません。」

なんてね、ええそのうちに去る者は日々にうとしとやら、ええ高尾とも言わなくなった、3年とも言わなくなった、15両とも言わなくなった、ああやれやれ、そんなもんは熱病みたいなもんだ。すぐに忘れちまうんだろうと思っておりましたら、あっという間に3年という月日がながれまして・・・

「おはようございます!親方!どうも!おはようございます!」

「おうおはよう。おおう、朝湯か。」

「へい、行ってきやした。へへい、ちょいと、こすってきやした。へへい。なかなか、いい男でしょ。」

「ああ、まあ自分でいい男って言ってりゃ世話ねえやな。今日は休みか。」

「ええ、あのう、おかみさんには以前から言ってあったんですが。」

「ああ、聞いてるよ。遊べ遊べ、休んで遊ばなきゃいけねえやな。人間な、仕事をするときは一生懸命、休む時は一生懸命休まないってえといい仕事はできねえって、おおう、あのな、カミさんに言って銭が足りなかったら少し借りて多めに持って、好き放題、上野でもどこでも行って遊んできな。」

「はい、ありがとうございます。ところであのう、親方に3年めえからあのうずっと預けておりましたあのう給金なんですけど、お、あれいくらになりましたかね?」

「あああ、よく言ってくれたあ、夕べだあ、おっかあと二人でもってそろばんパチパチ、ええ?驚いたぞお、なあ、人間やってやれねえことはねえぞ、なあ、いくら貯まったたと思う?18両2分だ。すごいねえ、塵も積もればなんとやら、塵じゃあねえけどよ、塵じゃあねえけどやってやれねえことはねえんだとかかあと二人で感心してたんだ。うん、ここだぞ久公、貯めるのは難しいのに使うのは簡単だ。こんだけ一生懸命かかったって使うときはぷっとなくなっちまう。ここでひとがんばり、1両2分貯めろ。するとしめて20両。そしたらな、着物の新しいの上下買ってやらあ。手土産持たせて、おふくろんとこ帰んな。一旦な。上総湊かってそう言ったろ。おふくろのとこ行って手つかずの20両そこへ出せ!赤の他人に千両万両貰うより我が子に貰う20両母親どれだけ嬉しいかわからねえ。孝行してこい。で、向こう飽きたら今度戻ってこい。戻ってきた時に、お前にこの店譲ってやらあ。なあ、ああ!他の者にはいいやなあ、他の者には他の者らしいことちゃあんとしてやるんだ。おれはただおめえのことが好きなんでな。夫婦養子ってえのかな、かみさんでも貰って、ちょいと、この後を継いでもらいたいと、そうおもってるんでな、な、いいかい、ここまでちゃあんと決まってるんだ、俺の頭の中でな。あとひと踏ん張り、1両2分貯めろ。で、20両、わかったな。がんばれよ!」

「はい!で、その前にそのうちの15両、使いたいんですけどね。」

「お前何にも聞いてねえだろ俺の話。こんなに一生懸命喋ったあとにそれはなんなんだよ。ええ?おめえが3年飲まず食わずで貯めた18両2分、そのうちの15両使いたいっていうのか?なんに使うんだよ。」

「な、なんだっていいじゃありませんか。」

「よかねえやな。何に使うか言ってみろよ。」

「いいんですよ、自分で稼いだ金なんですから自分で使いますよ。」

「なにを?嫌な言い方しやがんな。てめえで稼いだ金だからてめえで好きなように使う?はん!10年はええや、ばか!ちくしょうめなにをぬかしやがんだおれあ親がわりだ!俺のもとで貯めた金を俺が知らねえところで使われたんじゃたまったもんじゃねえや。ええ?15両何に使うんだ。言わねえんだったら使わせねえよ。」

「だだって、これあっしが貯めたお金じゃねえですか!。」

「おめえが貯めた金でも親方の俺が親代わりだからうんと言わなきゃ使わせないとそう言ってんだ。」

「てめえで稼いだ金がてめえで使えないんですか?」

「使えないんだよ。」

「・・・・・じゃあいらねえ!」

「いらねえ?ありがとお。おいおっかあ!18両2分て大金が入ったあ、おお、おめえたしか帯と着物が買いたいってそう言ってたろ。呉服屋呼んで来い、ずらっと並べて好きなの買いなよ。」

「だ、誰がやるっつったよ!」

「おめえ今いらねえってそう言ったじゃねえか。」

「はん!・・・はん!・・・」

「じれてんの。ばあか。オメエが稼いだ金親方のおれがどうこうするわけねえだろ。ええ?言ってくれよ、心配だからよ。15両ってどういう金だかわかってんのかおめあ。頼むから。なあ。なんかおめえにも考えがあるんだろうけれども。俺に話してくれ。」

「だ、だって、わかってんでしょ?」

「わからねえから聞いてんじゃねえかよ。」

「もおおお、頭悪いな・・・た、た、高尾買うんですよ。」

「何?鷹を飼う?おいよせそんなもんおまええ・・あぶねえこんなとこ乗せておまえ・・こんなんだぞおまえ、ぴーっていくとこんなんなっちゃうんだぞおまえ・・じゃあどうしても鳥が飼いたきゃジュウシマツか、メジロか・・・」

「どこの世界に15両出してここに鷹乗せて楽しいやつがいるんですかあ・・・あたしが18両2分貯めたうちの15両はねえ、三浦屋の高尾太夫に会いたい・・・・」

「お、お、お、おめえまだ覚えてやがったのか。執念深えやろうだなおいい、すっかり忘れてたおおそうかい、するってえと何かいおまえ3年前あたりに言ってた18両2分のうちの15両、一晩でぽんっと使おうってのかい?」

「いけませんか?」

「でえすきだそういうことは。うんん、羨ましいな。」

「じゃ親方一緒に・・」

「ばかやろう、おれが一緒に行ったってしゃあねえやな。おおそうかいいやあ驚いた驚いた。さあてと驚いたはいいんだがもうひとつこれは弱ったことになったいやいいんだ金はいいんだ、たんとじゃねえけど門前払いくわすほどの銭じゃねえやな。ちゃあんとしたものだ。が、駄菓子買いにいくんじゃねえんだ。銭だけもってこれだけあるんだからちょうだいよってわけにはいかねえ、ちゃあんとしたひとが間に入ってちゃあんとしてないてええと。弱ったなおれが行ったってなんの役にもたたねえし誰かいねえかちゃんと無効が口きいてくれそうな・・おい、あのう角のところに医者がいるだろ、あれ医者なんていった名前・・やぶいちくあん・・やぶいちくあん、すごい名前だねえ、あの医者、医者の腕はたいしたこたないんだけど、じょうろかいの腕は大したもんだって名人だって噂だからよ。とにかくあの先生呼んできてくれ。ええ?表を通る?どこ?おお!いいいい、おれが呼ぶよ!先生い!ちょっとこっちへ!先生!」

「はいはいはいはいはいいい、はいはいはいはいはいはいはいいい、はいいはい。」

「先生どっか医者に見てもらったほうがいいんじゃないですか。喉おかしいですよ。」

「おかしいんじゃありません、これが貫禄です。」

「ああ貫禄ですか。ああすいませんわざわざ入って来ていただいて。」

「はああ、病人はどこです?」

「あああ、病人だったら先生じゃあ呼ばないんですけどねえ。ここにいる久蔵、ご存知ありませんかねえ。ええあっしが一番目えかけてるうちの職人なんですがねえ。ええそのう、言いにくいんですがねえそのう、吉原いきましてねえ花魁道中見て三浦屋の高尾太夫に惚れたっていうんですよ。いやいやそりゃあままままあバカな話ですがね、そのかわり3年飲まず食わずで貯めた15両って金があるんですがね、先生これで一つ間に入っていただいてこいつをなんとか高尾に合わせてやっていただけないかと思うんですが、いかがなもんですかね?」

「はああ、そちらの久さんが。へえ。ほおですか。ふうん。で、いつ行きたいんですか?うん、今すぐ。これから。さっそく、まっすぐ。はああそうですか。じゃあ行きましょうか。」

「いやあ先生、先生病人とか患者とか。」

「いえ、そういうものは、生きるものは生きる、死ぬものは死ぬ。別にいいんですけどね。ただそのなんですね、このまんまじゃあたしと一緒に行って紺屋の職人ですと言ってもそら向こうで入れてくれるじゃありませんからなんか筋作らないといけませんね。えええじゃあこうしましょうかね、久蔵さんお前さんね、流山あたりのお大尽の若旦那ってことにしといてください、それであたしがそこの出入りに医者ということでね。ですから久蔵さんわかりますね、この筋で言うとあたしのほうがお前さんより下、あたしは出入りの医者だから、だから先生とか、やぶい先生なんて言うと向こうのほうで妙に思いますからいいですね。呼び捨てにしてくださいよ、おいやぶい、おいやぶいと呼び捨てにしてください。できますか。」

「それはちょっとお・・・」

「いいよ、先生がやれっていってんだから。やらなきゃ向こうに連れてってもらえないんだから、高尾に会えるんだったら呼び捨てくらいいいいじゃねえか」

「はあ。わかりました。まあやってはみます。おい、ヤブ医者!」

「・・・医者までいらないよ。それからねえ、そのお言葉ね、職人言葉で話されるといくら若旦那気取りで行ってもどうにもなりませんでね、ええ、どうしましょうかね。ええ重ね言葉がいいかね、なにを言われてもあいあい、あいあいと、この言葉がきれいでいいやね。なんか鷹揚でいいやね。あいあいあとね。それからその出てる手ね。そらあもう染物やってりゃ仕方ないどうやったって落ちるもんじゃない、でもその色見たらすぐ紺屋の職人てことがわかっちまいますからいいですか、まあこうやって袖の中にいれてくださいな。でこうやりながら何を言われても何を聞かれてもあいあいあいあいと、ま確かにバカっぽいけどねえ、でもまあいいと思いますよ。ええお願いしますよそれじゃみなさんでちょっと久蔵さん着替えさせていただいて・」

「じゃあ久蔵こっちきな。」

「久さんこっちきな。」

「久ちゃんこっちきな。」

てんでみんなで寄ってたかってこしらえて、

「どうです先生。馬子にも衣装、髪形、りっぱなもんでございましょ。なかなかいなせないい男だ、いいかい、これから先生に間入ってもらっておめえが3年かけてためた15両、これでいって振られるんじゃねえぞおまえ。何とかして想いを遂げてこいよ。なあ15両、ふいどこにするとばかみてえだからよ。振られんじゃねえぞ。振られるなよ。」

「へえ、大丈夫です。」

「ほんとだな?」

「大丈夫です。ごらんなさいよ外。いい天気です。」

「・・・・それじゃ先生、お願いしますよ。」

「はいはい、それじゃあ久さん出掛けようか。」

「やぶい!」

「まだ早えんだばかやろう!」

なんてんでね。ふたりが紺屋六兵衛のうちを出まして、お玉が池通り過ぎますと、上野、それから浅草、吉原へと、遊女三千人ごめんの場所と言われたそうでございます。ここから非常に辛いところに入っていくわけでございます。なぜならば吉原というところは今ないのでございます。赤線の廃止で無くなったのでございます。ワタクシが4つのときでございました。ですから、わたしが富山に居たから行けなかったんじゃなくて、年齢的に東京に居てもほとんで無理だったのでございます。ですから、今落語会で吉原に上がって実際女郎と話をしただの、やれ居続けをしたという人はごくわずかになってしまいました。ほとんどが吉原というものを知らない。当然おいでになっているお客様の中にもお年をめしたかたぐらいのものでございます。ほとんどの方がご存知ない。つまりここから繰り広げられるものは、知らない私が、知らないあなたに、わからないことをしゃべるということでございます。ですから皆さま方には今まで以上に想像力を逞しくして頂かないとこの先は続けていけないのでございます、まあその場所ということで申しますと非常に魅力的なところだったそうでございます。まあ囲われておりましてこのなかは文化の粋を極めたそうでございます。とにかく文化の中心がここだったということでございます。ね、ええ、ここからいろんな流行が発信されて街で流行って。うう逆でございます、いまでいうソープランドや風俗街そんなもんじゃございません、カッとしたひとつの世界がそこで繰り広げられた、誰もが憧れて、誰も軽蔑するものがいなかったと思っていただきましょう。誰もが憧れた場所、一度は行ってみいたい。また遊女といいますから風俗の極みだと思われるかもしれませんが、大正から昭和の初めにかけて文芸雑誌の表紙に使われたんだそうでございます。花魁というのは、太夫というのは。江戸っ子の憧れの的だったというわけでございます。

久蔵さん先生に連れられてお茶屋まで行く、お茶屋のおばさんが出てきて「どなたかよろしい方はいらっしゃいますか?」なんて聞かれた時に、こともあろうに高尾太夫をお願いしますと言われた時におばちゃんのほうはおおわあと驚いちゃう。そら確かに流山のお大臣というふれこみでございますから、それ相応の太夫や花魁は名指しはしてくるとは思ったけれども飛ぶ鳥を落とす勢いの高尾太夫に名前を言うとは思わなかった。だからといってびっくりしたからといってそれはダメというわけには参りませんし、「これからちょっと話をしてみますが、もしダメでもお気を悪くなさいませんようにお願いします。」と言って、おばさんが下がる。通して、高尾に話をきいてみると久蔵さん運が良かった、その日たまたま高尾が空いていた。空いていちゃしょうがありません、客を取らなきゃしょうがありませんから、また太夫の言葉を借りますと「いつも硬いお客はんばかりでつまりんす、たまにはそのような若旦那はんとお話がしとおござんす」、と言う。

花魁言葉里言葉、日本全国からいろんな女が売られて吉原にやってくる、そりゃあ京都弁みたいな言葉だったらいいですよ、なんかあっても「そうどすか」といわれると色っぽいですけどもね、ほらあ言葉まるだしでちょっと触ろうとすると、「おめえなにするだ!触ったらダメだっちゃっちゃー!」なんて言われると100年の恋も醒めてしまいますんで、言葉の終わりに「そうでありんす、そうざます、そうなんざんす。」と、まあこのそうなんざんすあたりは山の手あたりのおばさんにも少し残っておりますね。金縁の眼鏡を掛けて、糞詰りのチンかなんか連れて、お友達が目の前に居るのに船を呼ぶような大きな声で、「そうなんざんすのよお、うちの息子なんざんす、頭良いんざんす、産んだとき難産す。」なんて。

久蔵さん2階の12畳、継ぎの間付き、良い部屋でもって、大きな座布団の上に座って、「花魁は来る、来ないかもしれない、来る来ない来る来ない来る来ると、ぶつぶつ言いながら、どれくらいの時が経ったんでしょう、永かったんでしょうか。それとも永く感じたんでしょうか。そのうち5人のかおの衆に連れられた高尾が、うわ草履という厚い草履を履いて、ぱたんぱたんとやってくると、どすんと空いた横で、これが礼儀の横座りと言って、目線を合わせずこうやってお辞儀をされた時にもう久蔵は堪らない。そりゃそうでしょう。今みたいにビデオがあったり写真があったりグラビアがあったりいろんなものがあって自分の惚れたその女を毎日のように見ることができるんじゃない、3年前の花魁道中のときの記憶だけが頭の中に残って今日まで思いを詰めてきたその女が目の前で動いている。もうただただがたがたがたがたがたがた震えている。長煙管と言って、長ーい煙管でございますが、これを花魁持ちまして一服点けると、「主、一服吸いなんし」と言って出された長煙管、あいよと言って取ろうと思っても、先生に言われてる、この藍色に染まった手が出ちゃいますんで、と言って口で受け取るには長いなというのがありまして、しょうがないもんですからこれを受け取ると、火玉の踊るほどぷーっと済ましてこれを返す。何を言われても何を聞かれても「あいあい」としか答えないこの純朴な青年のどこに高尾が惚れたのか、またそれが性なのか。見事に久蔵を男にしてくれまして、夜が明けると祈った、時よ止まれと祈った久蔵の願いも虚しく夜が明けて、花魁は立ち上がると、うがい手水に身を清め、まあ男に寝顔を見せなかったそうです、昔の女の人は、昔の女の人は。別に繰り返すこともないんですが。久蔵だって起きてるんです。寝られるわけがありません、時よ止まれと祈ってた人間が寝れるわけあない、ただ目が覚めてるんだけれど起きていいものか、起きたってなにしゃべっていいのかなにしたらいいのかわからない。ただただ布団のなかでがたがたがたがた震えている。「主、目覚めの一服吸いなんし」と言われて、これがきっかけだと思うからまた火玉の踊るほどこれを吸ってこれを渡す。

「主、次いつ来るんざます。」

「・・・あいあい。」

「いつ来るんざます。」

「あいあい。あいあい。」

「いつ来るんざます。」

「さ、三年たったら来ます。」

「3年?永うござんす。他のお客はんは明日来るの明後日来るのと言いなんすに、なぜ主だけ3年。」

「い、いや、なぜ、、働いてお金貯めるんです。」

「働く・・・」

「いやあの、、すいませんあの、騙してました。いやあの、話ちょっと聞いてください。ええ、このまま黙って騙したまんま行こうと思ってたんですけどダメだ、そんな目でそんなこと聞かれるととても嘘つけない・・・あ、あれなんですよわたしあの、流山のお大臣でもなけりゃ、若旦那でもない、紺屋の職人なんですよ。」

「職人・・」

「そうなんです、実は3年前に花魁道中で初めて花魁を見て、一晩でいいから話をしたいって言われたら兄弟子みんなに馬鹿にされてうちに帰って寝ようと思っても眠れなくて、だんだん飯も食えなくなっちゃって、もうみんな死ぬぞ死ぬぞって言ってたんですけどもう死んでもいいって思って、どうにでもなれって思ってたんですよ。そしたらうちの親方っていう人がとっても良い人で、3年働け、3年働いて15両貯めたら会わしてやるってそう言いましたんで、必ず会わせてくれるもんだと思って一生懸命働きましたええ。そんで、近所の医者間にいれてくれて、会わせてくれたんです。ええ、ですからもういっぺん会いに来るためには3年働かなきゃなんねんです。でもなんですよね、飛ぶ鳥を落とす勢いの全盛の花魁、3年経ってから来てみたって、必ずどっかにお嫁に行ってる引かれてる当たり前のこってす。ですから、今日は、初めで終わりなんです、へえ。ありがとうございました。騙すつもりはなかったんですけど、こうでもしないと会えないとみんなが言うもんで仕方がなく・・へえすんません、申し訳ありませんで・・・ただあの、いや、騙しといてこんなこと言うのなんなんですけど、ひとつだけ頼みがあるんですが、おんなじ江戸の空の下です、生きてりゃどっかでまた会うこともあるかもしれません、そんときは、木で鼻くくったようにして、ぷいっと横向かないでください、一言で結構でござんす、目を見て、久さん元気?って言ってもらえませんかね。それだけでいいんです。今度はそれだけを頼りに生きていきますんで。ほんとに花魁、騙してすいませんでした。」

「主、今の話本当ざますか。」

「ホントも嘘も、こんなことわざわざ嘘つくってばかいません。ああ、これ見てください・・真っ青でしょ、これあの染物毎日やってるとどうやっても落ちないんですよ。ええ、こんなのやると、見せるとすぐにばれちまうから袖の中にいれてろって言われて昨夜からずーっと袖の中に入れてたもんでもう痺れて痺れて。いまもうどこにあるかよくわからないんですよ・・・・ほんとにすいません。」

「あちきは来年3月15日年が明けるんざます。そのときは眉毛を落として歯にかね染めて、主のところにまいりんす。」

「あいあい。あいあい。」

「主のところにまいりんす。」

「ま、ま、まいりんす。」

「あちき主の、女房はんになりたいんざます。」

「にょ、にょ、女房はん?女房はんて、女房はんて、女房!ははん、あっしがですか!?」

「主の正直に惚れんした。わちきのようなものができたからには2度とこの里に足を踏み入れてはなりません。」

と言って立ち上がる、タンスの引き出し30両、袱紗に包んで後日の証拠として久蔵に渡す。亭主の待遇で送り出された。さあ久蔵は何が何だかわからない、とりあえず店には着いたものの、

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「日本人か?おい、ええ?誰?久蔵?ああ久蔵か、おかしくなって帰ってきやがった季節の変わり目はみんなそう・・・そうっと開けるんだぞ、な、急に開けるとすぐに飛び込んで・・・ああ来やがった、ばかなんだ、飛び込んできて!」

「あ、あ、あ親方、行って来ました!行って来ましたよ!」

「おう、そらそうだろうな、行ったから帰ってきたんだ、そらいいんだけどよ、そうかい、だけど偉えな、おめえはええ?普通のもんじゃそうはいかねえや。あんないいところ行った日にゃあこんないいもんだとは知らなかったてんで二晩三晩と居続けてもおかしくないところ、一晩でぴたっと帰ってくる、それはおめえは偉えな。また働いてよ、気が浮向いたら行きな。え、どうだい、高尾に会えたか?高尾に会えたかよ。」

「あ、会えました。」

「会えた?・・・まあ、こんなこと言うとおめえに悪いが、本物じゃねえだろう、名代かなんか来て・・・」

「本人が来ました。ええ、親方にもよろしくってそう言ってました。」

「言うかおめえそんなこと!でも良かったなあ、15両貯めた甲斐があったな。」

「ええ、なんかいろんなこと言うんですよ。あいあいしか言わないつもりだったのになんかいろんなこと言ってました。」

「へえ、どんなこと言ってたんだい」

「なんですかね、『主の正直に惚れんした』、なんてこんなこと言うんですよ。んで、『来年3月15日、年が明けたら主のところに参りんす』、なんて、こんなこと言うんざんすよお、わちきはどうしたらいいんでありんしょ」

「張り倒すぞおまえばかおまえ。女郎の手練手管。なんで花魁ていうか知ってるか?狐狸は尾っぽでもって人をばかすが花魁は尾っぽもいらないで人を騙せる尾はいらない花魁ていうぐらいのもんだ、なあ。そんな言葉に乗っかっていくってえとケツの毛まで抜かれちまうんだ、いいよいいよ、なにが?嘘だってのいうのそういうのは。なにが?金もらったあ?なに、いくら?30両?見せてみな。あれ、ほんとにあるよ30両。それおめえにくれたんじゃねえだろうそれえ。おれにくれたんじゃねえかあ?」

「なんで親方に・・・」

「わかってるよお、おめえ、なんだか気持ち悪い金だ、とにかくなんでもいいや、かみさんにでも渡してとにかく先生に訳聞いてみなきゃ。おい、先生っていやあ先生どうした?」

「置いてきた。」

「置いてきた!まあいいや、まああの人が来るとまた死人が増えるからまあ置いときゃいいやそらあ。とにかく、くだらねえこと気にしねえで働け働け!」

「働きます!」

てんでさあ働くときたら大変でございます。何をするにしてももう来年3月15日高尾が来る来年3月15日おや来年3月15日っつってるから誰も久蔵とか久公とか呼ばなくなっちゃって。

「おう!来年3月15日!こっちこいよ。」

「どうも、お呼びですか。あたしが3月15日」

なんてね、言いながらそのうちにその年が暮れまして、明けた年、睦月、如月、弥生と来ました半ばの15日。紺屋六兵衛のうちの周りが妙に騒がしいなと思っておりますと、一丁の黒塗りの籠が、えっほえっほえっほえっほ、六兵衛の店の前にぴたっと止まる。

タレが上がると一番の丸髷でございます。眉毛を落として歯にかね染めました、高尾が、

「丁稚どん、この屋に久蔵はんというお方がおりんすによって、わちきが来たと伝えてくんなまし。」

「おおおおおおおおおお!親方大変ですよ!」

「津波か?」

「津波じゃありませんよ!来年3月15日がきましたよ。」

「なあにいい?ばかかおみゃあ!今年の3月15日が今日・・なにを?高尾がきた?おおおおおおおお!久蔵!大変だぞ!」

「津波ですか?」

「おんなじこと言うなおめえ。高尾がきたぞ、高尾が」

「高尾が来たってまた親方も他の連中とおんなじそういうこと言ってからかう喜ぶと思ってるんですから、へえ?ほんとに来たんですか?高尾が?あららららららら嘘だと思いますけどほんとに?あそうですか、へええええ・・・」

「おいおい倒れんじゃねえよおまええは!高尾だよ!」

「高尾おおお!」

てえと親方の頭をぽんと踏み台にするってえと土間のところにほっぽり出して、

「花魁・・・・」

「久はん。3月15日ざます。」

「ありがとうございます。」

本当でしたら口の悪い職人が揃っておりますんで「よおよおよおよおご両人」とかね、「待ってました」とかなんかいろんなことを言いそうなもんでございますが、そのときばかりは二人を見ていたらなにも言えなかったそうでございます。

親方が間に入りまして祝言をあげまして、飛ぶ鳥を落とす勢いの三浦屋の高尾太夫が紺屋六兵衛のうちへ入って染物を始めた、さあこれが江戸の大評判!

「聞いた?」

「聞いたよ。冗談じゃねえよ、すごいね高尾って女はよお、大名がほうぼうから千両箱いくつも積んでお願いしますって来ただろうよ。それ全部袖にして紺屋のとこに来ちゃった。いったまた久蔵てのがすごいらしいね。」

「すごいよお3年の間うんと貯めといて一発でどん!俺たちは毎晩ちびちびびちびちび。これからは貯めてどん、ためどんだな。」

「ああ、会いたくてよお、店の前まで行くんだけど染めもん持ってねえと中に入れてもらえねえんだよ。だからよおしょうがねえから家にあるもの染めて染めて染めてさあ、気がついたらなんにも染めるもんがないんでねえ、今日これから俺いくんだけどさあ、ほら!ふんどし染めよう思って!」

「ばかだなあおめえは。」

門前市を成す、それは大変なもんでございます。そらそうです。まだ身分制度のあった頃、ちょうど今で言いますと、トップ女優が、落語家のところに嫁にくるような、そんな図式でございます。お時間でございます。

落語の3人会終了。今回も最高に楽しゅうございました。

落語の3人会、終わりました。

なかなか個性的なメンバーで楽しかったですよ。

 

まずはポイポイ亭こぶ枝師匠。

演目は「死神」。

こちらポイポイ師匠の最初に覚えたお噺で、久しぶりにご披露です。

 

いやあ良かったです。

独特の空気感。

一度か二度やられてるからか、だいぶブラッシュアップされて凄みがましておりましたねえ。

観ているお客様が、何も面白いことをしていないところでもずうっと笑っておりましたので、存在がもう面白かったんでしょう。

サゲも毎回変えてくれるのでそちらも楽しみ。

今回は奥さんがろうそくを吹き消すというオチでございました。

 

いやほんとにポイポイ師匠は、子育てにボクシングに仕事にと忙しい中、落語をやるとなると参加してくれる粋なお方。

時間がない時間がないと言っている、おボンクラ(丁寧な言葉でね。)な方たちに見せてあげたいくらいでございますよ。

ね、ほんとに素晴らしい。

 

そして福山亭抹茶春師匠。

突如現れた落語界の天才。

前回も抱腹絶倒な「猫の皿」を見せてくださいましたが、今回は「替り目」。

こちらもまた絶品。

ひたすら酔っぱらいの亭主なんですが、序盤から細かいくすぐり満載。

終始爆笑で突っ走る怪演っぷり。

流石です。

 

そしてなんと言ってもまくらが最高。

何を話してたかはさっぱり覚えておりませんが、とにかく面白かったということだけ覚えております。

 

こちらの抹茶春師匠も、普段はミュージシャンで歌っておりますがこうして落語に付き合ってくださる素晴らしい方。

そしてなんと5月にはライブハウスにて歌ではなく落語を披露されるということで、今から楽しみでございます。

 

てなわけで、この2人に負けないようにワタクシも頑張りました。

演目は初めて披露する「紺屋高尾」。

志の輔師匠の紺屋高尾を。

 

いや、流石に難しいです。

どんなに真似しようと思ってもできない。

それでもなんとか頑張ってやりました。

実際皆様がどのように見てくれたかは分かりませんが、この噺はこれから一生をかけて育てていきたいなあと思っております。

 

そして今回は大喜利もありまして、なかなか盛り上がった良い会でした。

 

こちらは今後も不定期で開催していきたいと思っておりますので、ぜひお越しくださいませ。

 

よろしくお願いいたします。

 

 

大喜利のお題でございます。

今週日曜日、いよいよケディバシュカンにて3人会。

この日は初めて大喜利を試みます。

で、せっかくなのでお客様を巻き込んでやろうということにしたのですが、さすがにワタクシも含めて皆様プロではないのでいきなりその場での解答は難しいだろう、ということであらかじめお題を発表しておきます。

 

お題は3つ。

一つ目が、

「この刺青は好感が持てる!どんな刺青?」

二つ目が、

「あの人は餅が好きだなあ。なんでわかった?」

3つ目は、

「新しいアイドルグループ、『なごや娘』。
デビュー曲は?」

 

これでいきます。

 

ぜひ18日までに考えていただいて、ご参加くださればと思っております。

今月18日、19時から常滑のケディバシュカンにて。

よろしくお願い致します。

ケディバシュカンとなやばし夜イチさんにて落語あります。

スプリングハズカム!

ということで3月です。

今月は2つ予定あります!
まずは我がホーム、ケディバシュカンにて3人会です。

出演は、

・ポイポイ亭こぶ枝

・福山亭抹茶春

・大橋亭トリオ
今回はお客様も交えて大喜利もやります!

3月18日(日)19時開場。

入場はフリーですが、ワンドリンクのオーダーだけお願いいたします。

2つ目はなやばし夜イチさんです!

今月は23,24日で、日本酒祭りということで落語にバッチリ。

今回もワタクシは仕事終わりに落語だけさせていただきますので出演は20時くらい。
土曜日のみの参加になると思います。

ただ夜イチさんは金曜日と土曜日、ずっとやってますのでぜひ皆様、お酒と共にお楽しみくださいませ。

よろしくお願いいたします!